最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)757号 判決 1966年10月04日
上告人 高野チエ
同 高野喜久雄
同 安藤絹枝
同 斉藤幸子
同 高野悦子
同 高野憲治
同 高野一夫
右上告人七名訴訟代理人弁護士 山田重行
被上告人 万城目正こと万城目侃
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人山田重行の上告理由第一点について。
原審の認定した事実によれば、本件約束手形の振出人欄に振出人として表示された者は、「万城目正音楽院専務理事船津健男」であるが、手形の振出人を何人であると解すべきかは、もっぱら手形面の記載によって解釈しなければならず、手形外の材料をもって補充訂正することは許されないのであるから、右振出人は万城目正個人ではなく、法人またはこれに準ずる万城目正音楽院と解せざるを得ない。ところで、商法二三条に基づき被上告人の責任を問うためには、被上告人が自己の氏、氏名、商号を使用して営業をなすことを他人に許したことを要する。そして、万城目正音楽院が被上告人の氏、氏名でないことは勿論、その商号でもないことは原審の確定した事実から確認されるのであるから、本件においては、被上告人に対し同条に基づいて責任を問うための前提を欠くといわなければならない。従って、被上告人について商法二三条にいわゆる「自己ノ氏、氏名又ハ商号ヲ使用シテ営業ヲ為スコトヲ他人ニ許諾シタ」の要件がないとする原審の判断は首肯でき、結局上告人主張のような違法はなく、論旨は採用できない。
同第二点について。
本件手形の振出人を法人またはこれに準ずる「万城目正音楽院」と解すべきで、万城目正個人でないことは前記のとおりである。また、被上告人が船津健男に対し、自己の氏名を音楽院の名称に冠して用いることを承諾したことは、原審の確定したところであるが、これをもって被上告人が船津健男に民法一〇九条にいう代理権を与えた旨を第三者に表示したものと解することはできない。そうすれば、被上告人に対して民法一〇九条に基づく責任を問うためには、その要件を欠くものといわなければならない。従って、被上告人について同条に基づく責任がないとする原審の判断は首肯できる。所論は、原審が、船津健男が被上告人の代理人として本件手形を振り出したと仮定したうえでした傍論的な判示の違法をいうものであり、ひっきょう、判決に影響を及ぼさない法令違背の主張であって、採用できない。<以下省略>
(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)
上告代理人山田重行の上告理由<省略>